名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞


 若くさや 人の来ぬ野の 深みどり
                      三宅嘯山

(わかくさや ひとのこぬのの ふかみどり)

意味・・若草の萌え立つ頃、野に入ると、このあたり
    には来る人もなく、草も人里近いあたりとは
    違って、とくに濃い新緑の色に萌え立ってい
    る。

    ここでは公園化されていない、人のあまり来
    ない野の色濃い若草であり、自然の生命力の
    たくましさを感じています。
    
 注・・若くさ=芽生えたばかりの若々しい草。
    人の来ぬ野=公園課されていない野、人里離
     れて人が野遊びや摘み草に来ない野。
    深みどり=深い緑色。まばらではなく密集し
     た草の色。

作者・・三宅嘯山=みやけしょうざん。1718~1801。
    大祇・蕪村らと交流。


 目に嬉し恋君の扇真白なる
                   蕪村

(めにうれし こいぎみのおうぎ ましろなる)

意味・・大勢が一座する場所に、ひそかに思いをよせる男性
    がいる。その人は真っ白な扇を手にしてゆったりと
    風をいれている。いかにも品格のある、清潔な人柄
    がしのばれる。

    やや離れた場所から、相手の姿をほれぼれと頼もし
    く眺めている女性の心情を詠んでいます。

 注・・恋君(こいぎみ)=女性から見て男性の恋人をさす。

作者・・蕪村=ぶそん。与謝蕪村。1716~1783。

出典・・蕪村全句集・1298。


 郭公 なくや五月の あやめぐさ あやめも知らぬ
恋もするかな
                詠み人知らず
             
(ほとどぎす なくやさつきの あやめぐさ あやめも
 しらぬ こいもするかな)

意味・・ほとどぎすの鳴く五月となり、家々には菖蒲が
    飾られている。私の恋はあやめ(理性)も失い、
    ひたすら情熱に流されるばかりである。

 注・・あやめぐさ=菖蒲。
    あやめも知らず=物事の道理もわからない。

出典・・古今和歌集・469。

素もぐりの 桶の一つに 春日さす  
                   
(すもぐりの おけのひとつに はるひさす)

意味・・海人(あま)が海に潜り貝類を採っている。採ったものは
    浮き上がって桶に入れる。何組かの桶が浮かんでいるが、
    雲の合間から春光が射してきた。見る目には気持の良い
    春日だが、海人にはまだまだ物足りないだろうなあ。

 


 それも応是もおうなり老の春 
                   岩田涼菟

(それもおう これもおうなり おいのはる)

意味・・老いてくると、すっかり我執を払い捨てた
    身は、何事にもさからわず、それもよし、
    これもよしといって受け入れることだ。

    我執を捨て心の平安を願う一方、若年の血
    気はなく、我ながら角が取れてきたかなと
    苦笑する気持ちも詠んでいます。

 注・・応=「おうおう」と肯定し承知すること。
    老の春=老人が迎えた新春。

作者・・岩田涼菟=いわたりょうと。1659~1717。
    伊勢の神職。其角や支考等と交流。

出典・・句集「一幅半」(小学館「近世俳文・俳句集」)


 水なしと 聞きてふりにし 勝間田の 池あらたむる 
五月雨の頃 
                  西行

(みずなしと ききてふりにし かつまたの いけあら
 たむる さみだれのころ)

意味・・水が無いということで長い年月言いつがれて
    きた勝間田の池でも、五月雨が降り続き、池
    の様子もすっかり変ってしまったものだ。

    五月雨が降りようやっと池に水が貯まった喜
    びを歌っています。

 注・・ふりにし=「古り」と「降り」の掛詞。
    勝間田=奈良県生駒郡。
        あらたむる=新しくなる。

作者・・作者・・西行=さいぎょう。1118~1191。
    俗名佐藤義清。下北面の武士として鳥羽院に
    仕える。1140年23歳で財力がありながら出
    家。出家後京の東山・嵯峨のあたりを転々と
    する。陸奥の旅行も行い30歳頃高野山に庵を
    結び仏者として修行する。

出典・・家集「山家集・225」。


 朝霞 深く見ゆるや 煙立つ 室の屋島の 
わたりなるらん
              藤原清輔

(あさがすみ ふかくみゆるや けむりたつ 
 むろのやしまの わたりなるらん)

意味・・朝霞のいちだんと深く見えるあそこが、湖面に煙
    の立つ室の屋島のあたりなのであろうか。

    池から湯気が立ち上る風雅な景色を旅人の気持ち
    になって詠んでいます。

 注・・室の屋島=栃木県栃木にあった池。水蒸気が煙の
     ように立ち昇っていた。
    わたり=あたり。

作者・・藤原清輔=ふじわらのきよすけ。1104~1177。
    正四位太皇太后宮大進。

出典・・古今和歌集・34。


 山行くは たのしからずや 高山の 青雲恋ひて 
今日も山ゆく
                 結城哀草果

(やまゆくは たのしからずや たかやまの せいうん
 こいて きょうもやまゆく)

意味・・山を登るのは楽しくないのだろうか、いやいや
    楽しいものだ。青い空、緑の木々、鳥が鳴く山。
    そして冒険心をあおる山。今日も山が恋しくな
    って登っている。

    喧噪な街を離れ、山登りに集中し物思いも忘れ、
    新鮮な美味しい空気を吸うと、山登りの味が忘
    れられなくなってくる。

 注・・青雲=青空。出世。高尚な志。

作者・・結城哀草果=ゆうきあいそうか。1893~1974。
    斉藤茂吉記念館館長。


 門前に 市も立花の 盛かな
                    松永貞徳

(もんぜんに いちもたちばなの さかりかな)

意味・・橘の花のさかりに、花をめでる人々が集まって
    くるので、門前に市が立つほどである。

    橘の花の盛りを詠むのに「門前市をなす」の諺
    を用い、おおらかなおかしさを出しています。

 注・・門前に市=「門前に市をなす」は、出入りする
     者が多くその家が栄えることをいう。
    立花=「市が立つ」と「花橘」を掛ける。橘は
     芳香が強く夏の到来を知らせる。

作者・・松永貞徳=まつながていとく。1571~1653。
    和歌・連歌・狂歌・俳句などに活躍し多くの門
    弟を擁した。

出典・・犬子(えのこ)集(小学館「近世俳句俳文集」)


(1)わが宿の 軒の菖蒲を 八重葺かば 浮世のさがを  
  けだしよきむかも       
                   由之
  
(わがやどの のきのしょうぶを やえふかば うきよの
 さがを けだしよきんかも)

(2)八重葺かば またも閑をや 求めもせむ 御濯川へ    
    持ちて捨てませ        
                                                良寛

(やえふかば またもひまをや とめもせん みすすぎ
 がわへ もちてすてませ) 

意味(1)・・私の家の軒に魔よけの菖蒲をさしているが、
      これを幾重にもさしたなら、この世の邪気
      を、もしかしたら払いのける事が出来るだ
      ろうか。
意味(2)・・あなたの軒の菖蒲を幾重にもさして悪い者
             を払ったらまた楽しみを求めようとするだ
             ろう。邪気を払う菖蒲がかえってあなたの
             ためにならないから、神を拝むために身を
             清める川へ持って行ってお捨てなさい。

     「暇ほど毒はない」という事をいっています。

 注(1)・・さが =悪いもの、邪気。
      けだし=もしかしたら。
      よきむ=避ける。
       菖蒲=魔除けとして軒に吊るしたり刺され
               たりしていた。
 注(2)・・閑(ひま)=暇つぶし、道楽。
      求(と)め=求める。
      御濯(みすすぎ)川=御手洗(みたらし)川、
               身を清める川。

作者(1)・・由之=よしゆき。良寛の弟。
作者(2)・・良寛=りょうかん。1758~1831。越後出雲
           崎に神官の子として生まれる。18歳で曹洞
           宗光照寺に入山。

出典・・谷川俊朗著「良寛全歌集」。

 

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