夕暮れは ものぞかなしき 鐘の音を あすもきくべき
身とし知らねば           
                  和泉式部

(ゆうぐれは ものぞかなしき かねのおと あすも
 きくべき みとしらねば)

意味・・夕暮れはなんと悲しいことだ。入相の鐘を
    明日も聞くことの出来る身だとは分からな
    いので。

    入相の鐘の音を聞いて詠んだ歌です。
    
    病気や事故、会社の倒産などで明日も今日
    と同じように鐘の音が聞けるとは限らない、
    という気持を詠んでいます。
    入相の鐘が明日も同じように聞けるとは限
    らないと思うと、この日この日を大切にし
    て生きて行かねば、という気持です。

    西行も同じような歌を詠んでいます。

   「待たれつる入相の鐘の音すなり明日もや
    あらば聞かんとすらむ」 (山家集)

   (今日聞くのが最後かと待たれた入相の鐘が
    聞こえて来る。もし明日も命があったなら
    再び同じ気持で聞くことであろう)
    
 注・・入相(いりあい)の鐘=夕暮れ時に鳴る鐘の
     音。人生の黄昏(たそがれ)を思わせる寂
     しさが伴います。
 
作者・・和泉式部=いずみしきぶ。生没年未詳。10
    09年中宮彰子に仕えた。
 
出典・・詞花和歌集・357。