吾妹子が 見し鞆の浦の 天木香の木は 常世にあれど
見し人ぞなき
                     大伴旅人

(わぎもこが みしとものうらの むろのきは とこよに
 あれど みしひとぞなき)

 注・・吾妹子(わぎもこ)=「わがいもこ」の転で、自分の
         妻を親しく呼んだ語。
    鞆の浦=広島県福山市鞆町の海岸。
    天木香=「むろ」と読む。松杉科の常緑高木樹。
    常世(とこよ)=永遠に変わらない事。
    見し人=亡き妻をさす。

意味・・わたしの妻がかって見た鞆の浦の「むろ」の木は、
    いつまでも変わらずにあるけれど、その見た妻は
    (すでにこの世に)いない。

    自然の永久不変に比して、人間のはかなさを歎いて
    いるが、体験に根ざした感慨であるだけに、実感が
    こもっています。

作者・・大伴旅人=おおとものたびと。665~731。従二位・
     大納言。

出典・・万葉集・446。