更けにけり 山の端近く 月冴えて 十市の里に 衣打つ声
                      式子内親王

(ふけにけり やまのはちかく つきさえて とおちのさとに
 ころもうつこえ)

 注・・山の端=山の上部で空と接する部分。
    十市(とおち)=奈良県橿原(かしはら)にある十市町。
    「遠・とお」を掛けている。
    衣打つ=衣を柔らかくしたり光沢を出すため、木槌で
    布を打つ(砧・きぬた)のこと。
    女性の夜なべ作業であった。

意味・・夜が更けてしまったことだ。山の端近くに月の光が
    寒く澄み、遠い十市の里で衣を打つ音が聞こえるよ。

    山の端の冴えた月の光と、遥かな十市の里の砧(きぬ
    た)の音とで、夜更けに気がついた。その情景(砧を打
    つ女性の夜なべ作業)に見入っていた思いと極まった
    哀愁とが響き出ています。