1/1 八重葎 しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね 
   秋は来にけり            恵慶法師
1/2 苦しくも 降り来る雨か 三輪の崎 狭野の渡りに
   家もあらなくに           長意吉麻呂 
1/3 たまきはる 宇智の大野に 馬並めて 朝踏ますらむ
   草深野               中皇命
1/4 夕されば 門田の稲葉 おとづれて 芦のまろやに
   秋風ぞ吹く             源径信
1/5 むっとして もどれば庭の 柳かな   大島寥太
1/6 煙草 賎が伏せ屋に くゆらせて 君のめぐみに
   咽ぶあさゆう             橘曙覧
   高き屋に 登りて見れば 煙立つ 民のかまどは 
   にぎわいにけり           仁徳天皇
1/7 秋の野に 宿りはすべし をみなへし 名をむつましく
   旅ならなくに            藤原敏行
   女郎花おほかる野辺に 宿りせば 人の心の
   悪しき憂ければ           小野美材
1/8 初雁の なきこそ渡れ 世の中の 人の心の
   あきし憂ければ           紀貫之
1/9 未来まで その香おくるや 墓の梅   童門冬二
1/10 我が宿の 軒の菖蒲を 八重葺かば 浮世のさがを
   けだしよきむかも           由之
   八重葺かば またも閑をや 求めもせむ 御濯川へ
   持ちて捨てませ            良寛
1/11 風吹けば 峰にわかるる 白雲の 絶えてつれなき
   君の心か               壬生忠岑
1/12 春日野は な焼きそ 若草のつまもこもれり
   我もこもれり             読人知らず
1/13 かずならぬ 身にさへ年の つもるかな 老いは人をも
   きらはざりけり            成尋法師
1/14 たのしみは 常に見なれぬ 鳥の来て 軒遠からぬ
   樹に鳴きし時             橘曙覧
   たのしみは 遠来の客 もてなして 次ぎなる再会
   約束する時              破茶
1/15 降る雪や 明治は 遠くなりにけり   中村草田男