葛の花 踏みしだかれて 色あたらし この山道を
行きし人あり      釈迢空(しゃくちょうくう)

(くずのはな ふみしだかれて いろあたらし この
 やまみちを ゆきしひとあり)

意味・・もう長いことこの島山の道を歩いているが、
    誰一人行き逢う人もない。そうした山道に
    あざやかな赤紫の葛の花が、踏みにじられ
    て、鮮烈な色を土ににじませている。ああ、
    この山道を、自分より先に通った人がある
    のだ。

    この歌は民俗採集のために壱岐(いき)に渡
    った時の作です。人気の無い山道で、予想
    もしなかったことに出会った驚きと感動を
    詠んでいます。

 注・・葛の花=葛は豆科の草。晩夏に短い藤の花房
      を立てたような赤紫の花をつける。
    しだかれて=荒れる、乱れる。
    あたらし=新し、新鮮だ。

作者・・釈迢空=1887~1953.本名折口信夫。古典
      学者、民俗学者。柳田国男を師とした。