心には 秋の夕べを 分かねども ながむる袖に
露ぞ乱るる           
                源氏物語・浮舟

(こころには あきのゆうべを わかねども ながむる
 そでに つゆぞみだるる)

意味・・心では秋の夕暮れが悲しいと思っているわけ
    ではないが、物思いに沈む私の袖には涙の露
    が乱れ落ちます。

    物思いに沈む涙とは・・・。好きな人につれ
    なくされて出る涙か、それとも、平忠度の歌
    「行き暮れて木の下陰を宿とせば花はこよい
    の主ならまし」というように、敗者の無念の
    思いの涙か。(意味は下記参照)      

注・・分かねども=分からないけれど。「ね」は
    打ち消しの助動詞の已然形。
   ながむる=眺むる。物思いに沈むこと。
 
作者・・浮舟=源氏物語の浮舟の巻の主人公。
 
出典・・源氏物語。

参考歌です。

行き暮れて 木の下陰を 宿とせば 花やこよひの 
主ならまし       
                 平忠度

(ゆきくれて このしたかげを やどとせば はなや
 こよいの あるじならまし)

意味・・行くうちに日が暮れて、桜の木の下を今夜の宿と
    するならば、花が今夜の主となってこの悔しさを
    慰めてくれるだろう。

    一の谷の戦いで敗れて落ち行く途中、仮屋を探し
    ている時、敵方に討たれた。この時箙(えびら)に
    この歌が結ばれていた。

    敗者の悲しみとして、明治の唱歌「青葉の笛」に
    なっています。

    一の谷の 戦(いくさ)敗れ
    討たれし平家の 公達(きんだち)あわれ
    暁寒き 須磨の嵐に
    聞こえしはこれか 青葉の笛

    更くる夜半に 門を敲(たた)き
    わが師に託せし
    言の葉あわれ
    今はの際(きわ)まで
    持ちし箙(えびら)に
    残れるは「花や今宵」の歌

 注・・行き暮れて=歩いて行くうちに暮れて。
 
作者・・平忠度=たいらのただのり。1147~
    1184。40歳。一の谷で戦死。
 
出典・・平家物語。