花いばら 故郷の路に 似たるかな  蕪村(ぶそん)
                   (蕪村句集・1176)

(はないばら こきょうのみちに にたるかな)

前書・・かの東皐にのぼれば

意味・・細い野路をたどって行くと、咲き乱れる野茨の
    芳香にいつしか包まれる。見覚えのあるこの路、
    そういえば幼い頃、これとそっくり同じ小路に
    遊んだことがあるような気がする。

    母の慈しみを抱き郷愁を詠んだ句で、次の三句
    が連句として詠まれています。

愁いつつ 岡にのぼれば 花いばら
(うれいつつ おかにのぼれば はないばら)

意味・・愁いを胸に秘めながら岡を登って行くと、そこ
    に野茨の可憐な白い花が咲いている。そのひっ
    そりした香りがやさしく私を包み込んでくれる。

前書きと三句を連記すると、

  かの東皐にのぼれば、
  花いばら故郷の路に似たるかな
  路たえて香にせまり咲くいばらかな
  愁いつつ岡にのぼれば花いばら

三句連作の意味・・かの陶淵明が故郷の田園に帰って
  東皐に登ったように、私もこの岡を登って行くと、
  野茨が芳香を漂わせて咲き乱れ、いつしか故郷の
  小路をたどっているような錯覚におそわれる。
  やがてその小路も絶えて、ひときわ強く野茨の香
  りが迫るように匂って来る。やるかたなき郷愁に
  耐えながら、私はなおも野茨の咲き乱れる岡を登
  って行く。

 注・・東皐(とうこう)=東の岡。陶淵明の「帰去来
     辞」の一節。
    愁いつつ=旅愁や郷愁など遠い眺望を持った
     愁いであり、桃源郷に遊ぶ心境。