いかるがの さとのをとめは よもすがら きぬはたおれり 
あき ちかみかも
                会津八一(あいづやいち)
                  (南京新唱)

意味・・斑鳩(いかるが)の里の娘は、一晩中、機を織って
    いる、その音が聞えてくるが、もう秋が近いのだ
    なあ。

    明治41年に大和(奈良)へ旅行した折の作です。
    古への憧(あこが)れや懐かしさなど、特別な思い
    がこもる斑鳩。その里の娘が織る機の音が、静ま
    り返った夜の村をあちこちから明け方近くまで聞
    えてくる。もう秋が近いことを感じ、しみじみし
    た気持です。

    参考歌です。

    み吉野の山の秋風さ夜更けて故郷寒く衣打つなり
     (意味は下記参照)

 注・・いかるが=斑鳩。奈良県生駒郡斑鳩町。法隆寺の
     ある町。
    よもすがら=夜通し。
    きぬはた=衣機。衣服を織る機械。
    ちかみ=近み。「み」は理由や原因を表す接尾語。

作者・・会津八一=1881~1956。文学博士。美術史研究家。
     歌集「鹿鳴館」、「南京新唱」。

参考歌です。

み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて 古里寒く
衣打つなり
          藤原雅経(ふじわらのまさつね)
           (新古今・483、百人一首・94)

(みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさと
 さむく ころもうつなり)
 
意味・・吉野山の秋風は夜更けて寒く吹き、かって都の
    あった里では寒々と衣を打つ音が聞こえて来る。

    古京の秋の夜寒のわびしさを、山の秋風の音と
    里の砧(きぬた)を打つ音とにより、流麗な音楽
    的な調べで詠っている。

注・・古里=吉野は古代の離宮の地であることから、古く
    都があった土地(古京)の意で、「古里」と呼ぶ。
    人に忘れ去られ、荒れ果てた地のイメージがこめ
    られている。
   衣打つ=砧(きぬた)のこと。衣を柔らかくしたり
    光沢を出すため木槌で打つこと。女性がする夜
    なべ作業であった。

作者・・藤原雅経=1170~1221。「新古今集」の撰者の一人。