照る月の 冷えさだかなる あかり戸に 眼は凝しつつ
盲ひてゆくなり
           北原白秋(きたはらはくしゅう)
             (黒檜・くろひ)

(てるつきの ひえさだかなる あかりどに めは
 こらしつつ しいてゆくなり)

意味・・ガラス戸に照っている月の光がいかにも冷え
    冷えとした冷たい感じは、盲(めし)いてゆく
    眼にもはっきり分かるのだが、この冷え冷え
    したガラス戸を、よく見えない眼で見つめな
    がら、この冷たい世界で、だんだん自分は盲
    人になってゆくのだ。

    眼底出血して入院している時に詠んだ歌です。
    失明への恐れという事態になって自分の気持
    を整理しています。    

 注・・さだかなる=はっきりしているの意。
    あかり戸=明かりをとる戸の意でガラス戸。
    凝(こら)しつつ=「凝す」はじっと見つめる。
    盲(し)ひて=「しふ」(廃ふ)は器官の働きが
     なくなる意。「盲」は「めしひて」と読む
     べきだが、リズムの上で「め」をはぶいた
     もの。

作者・・北原白秋=1885~1942。近代詩歌にすぐれた
     仕事を残す。詩集「邪宗門」歌集「桐の花」
     「黒檜」。