(3月22日)名歌鑑賞・1419

たのめつつ 逢はで年経る 偽りに 懲りぬ心を
人は知らなん
            藤原仲平(ふじわらのなかひら)
            (後撰和歌集・967)

(たのめつつ あわでとしふる いつわりに こりぬ
 こころを ひとはしらなん)

意味・・そのうちに逢いましょうと何度も期待をさせて
    逢いもしないで歳月を過ごすという偽りにも、
    懲りずにお慕いする私の心をあなたは知ってい
    ただきたいものです。

 注・・たのめつつ=頼りにさせる、期待させる。

作者・・藤原仲平=875~945。左大臣。

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(3月23日)名歌鑑賞・1420

老いぬれど 花みるほどの 心こそ むかしの春に
かはらざりけれ
             伴蒿蹊(ばんこうけい)
             (閑田詠草)

(おいぬれど はなみるほどの こころこそ むかしの
 はるに かわらざりけれ)

意味・・老いてしまったけれど、花を見る時の浮き立つ
    ような気持は、昔の若い頃の春と変りはしない
    なあ。

 注・・花みるほどの心=花を見る時の浮き立つような
    心の状態。

作者・・伴蒿蹊=1733~1806。商人の生まれ。36歳で隠居
     し文人となる。「閑田詠草」「近世畸人伝」。

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(3月24日)名歌鑑賞・1421

春くれば 散りにし花も さきにけり あはれ別れの
かからましかば
            具平親王(ともひらしんのう)
            (千載和歌集・545)

(はるくれば ちりにしはなも さきにけり あわれ
 わかれの かからましかば)

意味・・春が巡って来たので去年散った花も咲いたこと
    ですね。ああ、人との別れがこのようであった
    なら嘆くこともないでしょうに。

    桜狩に行った時に、昨年亡くなった人の話題と
    なり、詠んだ歌です。

 注・・あはれ=感動を表す語。ああ、なんとまあ。
    かからましかば=斯からましかば。もしこの
     ようであったならば。

作者・・具平親王=964~1009。。中務卿・正四位上。
     村上天皇弟7皇子

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(3月25日)名歌鑑賞・1422

稚ければ 道行き知らじ まひはせむ したへの使
負ひて通らせ
            山上憶良(やまのうえおくら)
            (万葉集・905)

(わかければ みちゆきしらじ まいはせん したえの
 つかい おいてとおらせ)

意味・・私のかわいいかわいい子は突然死にました。あの
    子はまだ幼い子供ですから、冥土へ行く道の行き
    方を知りますまい。冥土からお迎えに来られた
    お役人さんよ、私は貴方にどっさり贈り物をいた
    しますから、どうか脚の弱いあの子を負んぶして
    冥土へおつれ下さいませ。
    
    長歌の一部です。

    明星の輝く朝になると、寝床のあたりを離れず、
    立つにつけ座るにつけ、まつわりついてはしゃぎ
    まわり、夕星の出る夕方になると「さあ寝よう」
    と手にすがりつき、「父さんも母さんも離れない
    で真ん中に寝る」とかわいらしく言うので、早く
    一人前になってほしい・・。

    長歌では憶良がひたすらわが子の成長を楽しんで
    いる様子が描かれ、その後に急死した悲しさが詠
    まれています。

    人が死ぬと冥土から迎えの使いが来ると信じられ
    ていた時代の歌です。

 注・・まひ=幣。謝礼として神に捧げたり、人に贈る物。
    はせむ=馳せむ。急いで・・する。
    したへ=下方。死者の行く世界、黄泉の国。
    通らせ=「せ」は尊敬の語。

作者・・山上憶良=660~733。遣唐使として3年渡唐。
     筑前守。大伴旅人と親交。