(5月3日)

郭公 なくや五月の あやめぐさ あやめも知らぬ
恋もするかな
             読人知らず
             (古今和歌集・469)

(ほとどぎす なくやさつきの あやめぐさ あやめも
 しらぬ こいもするかな)

意味・・ほとどぎすの鳴く五月となり、家々には菖蒲が
    飾られている。私の恋はあやめ(理性)も失い、
    ひたすら情熱に流されるばかりである。

 注・・あやめぐさ=菖蒲。
    あやめも知らず=物事の道理もわからない。




(5月2日)

夕靄は 蒼く木立を つつみたり 思へば今日は
やすかりしかな
          尾上柴舟(おのうえさいしゅう)
            (永日)

(ゆうもやは あおくこだてを つつみたり おもえば
 きょうは やすかりし)

意味・・日も暮れなずむころ、靄がしっとりと蒼く立ち
    こめて、深い木立を静かに包んでしまった。考
    えてみるに、今日も何事もなく平穏な一日であ
    ったことだ。

    平穏な日々を暮らすことは当たり前な事であろ
    うが、当たり前と思っていた事が実はそうでは
    ないと言っています。    

作者・・尾上柴舟=1876~1957。東大国文科卒。前田
     夕暮・若山牧水らと事前草社を興す。




(5月1日)

神奈備の 石瀬の杜の 呼子鳥 いたくな鳴きそ 
我が恋まさる
           鏡王女(かがみのおおきみ)
           (万葉集・1419)

(かんなびの いわせのもりの よぶこどり いたく
 ななきそ わがこいまさる)

意味・・神奈備の石瀬の森に鳴く呼子鳥よ、そんなに鳴くな、
    私の恋しい心が増すばかりだから。

 注・・神奈備=神が宿る場所。多く山や森にこの名が与え
     られ、祭祀(さいし)の対象とされた。
    石瀬の杜=奈良県生駒郡斑鳩(いかるが)にある森。
    呼子鳥=人にうったえて呼ぶような声で鳴くという。
    いたく=強く、熱心に。

作者・・鏡王女=額田王の姉。藤原鎌足の正妻。




(4月30日)

夕されば 君来まさむと 待ちし夜の なごりぞ今も
寝ねかてにする
              読人知らず
              (万葉集・2588)

(ゆうされば きみきまさんとまちしよの なごりぞ
 いまも いねかてにする)

意味・・夕方になると以前あなたは必ず来て下さいましたね。
    で、私は夜いつも起きてお待ちしていました。習慣
    って恐ろしいものですね、誰かさんのもとに行って、
    来て下さらなくなった今でも私は、夜目がさえて眠
    ることが出来ないのですよ。

 注・・なごり=余韻、余情、習慣の残り。
    かてに=・・出来ないで、・・に耐えられないで。