きりぎりす いたくななきそ 秋の夜の 長き思ひは
我ぞまされる
                   藤原忠房
           
(きりぎりす いたくななきそ あきのよの ながき
 おもいは われぞまされる)

詞書・・人のもとにまかれりける夜、きりぎりすのなき
    けるをよめる。

意味・・こおろぎよ、そんなに悲しそうに鳴いてくれるな。
    秋の夜は長いけれど、それと同じように長くつき
    ない思いは、この私のほうがよほどまさっている
    のであるから。

    この家の主人の嘆き悲しむのを見て、私のほうが
    もっとつらいのですと、我が心の寂しさを詠んだ
    ものです。

 注・・まかれりける=訪ねて行った。
    きりぎりす=今のこおろぎ。
    な・・そ=禁止の意味の助詞。

作者・・藤原忠房=ふじわらのただふさ>889~928。遣唐使。
              山城守。正五位下。

出典・・古今和歌集・196。