真菰草 つのぐみわたる 沢辺には つながぬ駒も
はなれざりけり
            俊恵法師(しゅんえほうし)
            (詞花和歌集・12)
(まこもぐさ つのぐみわたる さわべには つながぬ
 こまも はなれざりけり)

意味・・真菰草が一面に角のような芽を出した沢辺に
    馬を放しても、馬はその場を逃げ去らない。
    そこには草があり、そこが居よい所であるか
    らだなあ。

    この歌には、湯浅常山の「常山紀談」に逸話
    が載っています。

    細川幽斎の子の忠興(ただおき)が何事によらず
    諸事厳正に過ぎて家臣の面々やりにくく、多少
    の不服もあると、これを幽斎に告げる者がいた。
    幽斎は忠興の長臣を呼び、古歌二首を書き与え
    た。
   「逢坂の 嵐の風は 寒けれど ゆくへ知らねば 
    わびつつぞぬる」
    この歌の心を察せよ。
    次の一首が「真菰草・・・」の歌。
    「馬が沢辺を離れないように、人の心もまた同じ。
    情愛深い主人のもとには、つなぎとめることなく
    人は落ち着くものである。去れといっても去るも
    のではない」
    この歌の心を思慮せよと忠興にいえと教訓した。

 注・・真菰草=水辺に生えるイネ科の多年草。
    つのぐみ=角ぐみ。角のような状態。

作者・・俊恵法師=1113~1195。東大寺の僧。