岩がねに 流るる水も 琴の音の 昔おぼゆる
しらべにはして
           細川幽斎(ほそかわゆうさい)
           (衆妙集・658)
(いわがねに ながるるみずも ことのねの むかし
 おぼゆる しらべにはして)

詞書・・日野という所に参りましたついでに、鴨長明
    といった人が、憂き世を離れて住居した由を
    申し伝えている外山の庵室の跡を尋ねてみま
    すと、大きな石の上に、松が老いて、水の流
    れが清く、清浄な心の底が、それと同じだろ
    うと推量されました。昔のことなどを思い出
    して。

意味・・岩に流れている水も、琴の音の澄んで奏でて
    いた昔が偲ばれるような調べとなって聞えて
    くる。

    眼前の風景を、「方丈記」と重ね合わせて詠
    んだ歌となっています。

    「方丈記・序」です。

    ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの
    水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ
    消えかつ結びて、久しくとどまりたる例なし。
    世の中にある人と栖(すみか)と、またかくの
    ごとし。   

 注・・鴨長明=1216年没。「方丈記」。
    外山(とやま)=人里近い山。
    岩がね=大地に根を下ろしたような岩。
    琴の音の昔おぼゆる=鴨長明が琴を奏じた昔。

作者・・細川幽斎=1534~1610。織田信長に仕え丹後
    国を拝領。豊臣秀吉・徳川家康に仕える。家
    集「衆妙集」。