駒とめて 袖うちはらふ 陰もなし 佐野のわたりの
雪の夕暮れ       
            藤原定家(ふじわらさだいえ)
            (新古今和歌集・671)

(こまとめて そでうちはらう かげもなし さのの
 わたりの ゆきのゆうぐれ)

意味・・乗っている馬を止めて、袖にたまった雪を打ち払
    おうとしても、そうする物陰すらもない。佐野の
    辺りの雪の夕暮れよ。    

    馬を配し、時を夕暮れとし、一帯を白一色にして
    降る雪の中を、旅人が悩んでいる情景を画趣とし
    詠んだ歌です。

    本歌は、
    「苦しくも降りくる雨か三輪が崎狭野の渡りに
     家もあらなくに」です。

 注・・佐野=和歌山県新宮市内。
    わたり=辺り、あたり。

作者・・藤原定家=1162~1241。「新古今和歌集」の
     撰者の一人。

本歌です。

苦しくも 降り来る雨が 三輪の崎 狭野の渡りに
家もあらなくに         
            長意吉麻呂(ながのおきまろ) 
            (万葉集・265)

(くるしくも ふりくるあめか みわのさき さのの
 わたりに いえもあらなくに)

意味・・困ったことに降ってくる雨だ。三輪の崎の狭野の
    渡し場には雨宿りする家もないのに。

    旅の途中で雨に降られて困った気持を詠んでいます。

 注・・三輪の崎=和歌山県新宮市の三輪崎。
    狭野=三輪崎の南の地。
    渡り=川を横切って渡るところ。

作者・・長意吉麻呂=生没年未詳。700年前後の人。