一つ家に 音をひそめて いる妻よ かかるあはれも
十年ふりしか
                 土田耕平 

(ひとつやに おとをひそめて いるつまよ かかる
 あわれも ととしふりしか)

意味・・同じ家にいて、いつもひっそりと音をたてない
    ように生活をしている妻よ、妻のこの心づかい
    はなんといたわしいことだろう。思えばそれも
    10年もの長い年月になっている。

    昭和15年の晩年に詠まれた歌です。
    何故「音をひそめて」いなければならないのか
    の理由は説明されていない。しかし耕平の晩年
    は結核と強度の不眠症の闘病生活を送っていた
    ので、この時分の気持ちを詠んだものです。
    自分のために立ち振る舞うのではなく、病人で
    ある主人の世話や家事にいそしんでいる妻の姿。
    長年苦労をさせ、楽しみを与える事が出来なか
    った妻への不憫さを詠んでいます。

 注・・音をひそめて=ひっそりとした生活をする。
    あはれ=しみじみと心をうつさま、ふびんだ。
    ふりしか=旧りしか。年月がたっている。

作者・・土田耕平=つちだこうへい。1895~1940(昭和
    15年)。長野県の小学校教師。結核を長年患う。

出典・・歌集「一塊」。