清水の 塔のもとこそ 悲しけれ 昔の如く
京の見ゆれば
           与謝野寛 (新万葉集・巻九)

(きよみずの とうのもとこそ かなしけれ むかしの
 ごとく きょうのみゆれば)

詞書・・明治43年の頃。

意味・・東山のふもとに建つ清水寺の三重の塔のもとに
    立っていると、悲しくせつない思いが、強く胸に
    こみあげて来る事だ。全く昔と変わらない自然の
    たたずまいと、それを背景とした京の街々が一望
    のもとに見渡されるので。

    清水寺の三重の塔のもとでたたずみ、昔と変わら
    ない京の姿を見ていると昔が偲ばれる。
    昔は、何事も真面目一筋に、自分をあざむかず、
    ごまかさずに生きてきた。そしてその結果、名声
    を得る事が出来たのだが。
    今と昔はどこが違っているのだろうか。今は満足
    出来なく寂しく悲しいものだ。

    明治43年は寛の37才の時の作です。この頃は妻の
    晶子の人気が高まり、その反面、寛は極度の不振
    に陥り、全く注目されない存在になっていた。
    この時の気持ちを詠んでいます。

作者・・与謝野寛=よさのひろし。1873~1935。号は鉄幹。
     妻の与謝野晶子とともに浪漫主義文学運動の中
     心になる。「明星」を発刊。詩歌集「東西南北」。