ひさかたの 天道は遠し なほなほに 家に帰へりて
業を為まさに
            山上憶良 (万葉集・801)

(ひさかたの あまじはとおし なおなおに いえに
 かえりて なりをしまさに)

意味・・俗を脱して仙人になって天に昇ろうと志した
    ところで、天への道はとても遠くて行き尽せ  
    るものではない、家に帰って日常の業務にい
    そしみなさい。

    詞書によると、憶良が地方官として筑前の国
    に赴任していた時、身辺に一人の奇人がおり、
    脱俗の仙人気取りで、口では高尚に議論をも
    てあそびながら、現実では老父母や妻子の生
    活を省みない、といった男に反省させる為に
    詠んだ歌です。
    長歌では、雲をつかむ様な観念の世界に遊ん
    でいるのはほどほどにして、妻子との日常茶
    飯の現実生活を大切にしなさい、日常の堅実
    な生活の方がむしろ人間にとっては大切なの
    だよ、と詠んでいます。

 注・・ひさかた=天・光・月などに掛かる枕詞。
    天道(あまじ)=天に行く道、理想の道。
    なほなほに=直直に。まっすぐに、すなおに。
    業(なり)=職業、多くは農業をさす。

作者・・山上憶良=やまのうえのおくら。660~733。
     遣唐使として渡唐。従五位下・筑前守。