津の国の こやとも人を いふべきに ひまこそなかれ
葦の八重葺き
           和泉式部 (後拾遺和歌集・691)

(つのくにの こやともひとを いうべきに ひまこそ
 なけれ あしのやえぶき)

詞書・・邪険にされたとして、逆恨みする男に送った歌。

意味・・津の国の昆陽(こや)ではありませんが、「来や」
    (来てほしい)とあなたに言うべきでしようが、
    葦の八重葺きの屋根の目が詰まっているように、
    世間の目がいっぱいで、そんな事がいえないの
    です。

    摂津の国の昆陽の遊女がするように、おいでな
    さい(来や)、とあなたを手招きしたい所ですが、
    宮仕えが忙しくてその暇がありません。私の住
    居はそのうえ、昆陽の遊女のように葦の茂みに
    隠れていないので目につきやすく、噂の種から
    逃れる隙もないのです。というわけで、お付き
    合いはご遠慮します。

    昆陽は葦の湿原が広がり、葦の茂みに隠れた
    小屋で遊女が春をひさぐのが有名であった。

 注・・津の国=摂津国。今の大阪府と兵庫県の一部。
    こや=昆陽。地名で兵庫県伊丹市・尼崎市にか
     けての一帯。摂津国の歌枕。「来や・小屋・
     此や」を掛ける。「来や」は来なさいの意。
    ひま=「暇」と「隙(すきま)」を掛ける。
    葦=イネ科の多年草。水辺に生える。高さは
     3メートルにも及ぶ。薄に似ている。茎は簾
     などの材料。
    八重葺き=屋根を幾重にも厚く、隙間のない
     ように葺くこと。また、その屋根。

作者・・和泉式部=いずみしきぶ。生没年未詳。980年
     頃の生まれ。「和泉式部日記」。