いちはつの 花咲きいでて 我目には 今年ばかりの
春ゆかんとす
             正岡子規 (竹の里歌)

(いちはつの はなさきいでて わがめには ことし
 ばかりの はるゆかんとす)

詞書・・しひて筆をとりて。

意味・・いちはつの花が咲き出して、病む自分の目に
    は今年だけに終わる春が今過ぎて行こうとし
    ている。

    不治の病の為に限られた命と感じて、再びと
    は逢いがたい「今年ばかりの春」だと嘆いた
    歌です・・が。
    「しひて筆をとりて」はいやいやながら無理
    に筆を取ったのではなく、限られた余命なの
    で出来る限り歌を詠もうと作歌行動にかられ、
    歌わずにいられなくて筆を取ったものです。

 注・・いちはつの花=一八の花。あやめ科の多年生
     草木。葉は剣状で、晩春4・5月に薄紫や白
     の花をつける。かきつばた・あやめ・菖蒲
     などとよく似た形である。
    我目には=「は」は特示の助詞。病に臥して
     いる自分には。
    今年ばかりの=来年の春までは生きられない
     生命と思う心がこめられている。

作者・・正岡子規=まさおかしき。1867~1902。35歳。
     東大国文科中退。結核で客血に苦しみ、脊
     髄カリエスで歩行困難になる。歌集「竹の
     里歌」。