戦死せる 人の馴らしし 斑鳩の 声鳴く村に
吾は住みつく
            土屋文明 (山下水)

(せんしせる ひとのならしし いかるがの こえなく
 むらに われはすみつく)

意味・・戦死して今では亡き人が、飼いならした斑鳩
    が毎年やって来て鳴く山村に、私はやって来
    て今住みついている。

    戦死した青年は、善良な人がらだったのだろ
    う。その村の森や林に遊びに来る斑鳩を可愛
    がって撃つなと人々をいましめていた。自ら
    は餌などもまいて手なずけることに努力した
    のであろう。そのかいあって季節になると毎
    年その鳥がやって来て呼ぶように鳴くが、そ
    の青年は永遠に帰ってこない。ゆかりを求め
    てかろうじて住み着いた山村に、かく無心な
    る斑鳩の鳴く声を聞いて感慨に耐えられない。

 注・・人の馴らしし=飼いならした、手なずけた。
    斑鳩(いかるが)=すずめ科の灰色の鳥、山鳩。

作者・・土屋文明=つちやぶんめい。1890~1990。東
     大哲学科卒。明治大学教授。