(5月22日 名歌鑑賞)


水伝ふ 磯の浦みの 岩つつじ 茂く咲く道を
またも見むかも
          皇子尊の宮の舎人
          (万葉集・185)
(みずつたう いそのうらみの いわつつじ もくさく
 みちを またもみんかも)

意味・・水が伝い流れている水ぎわの曲がり角に、岩
    つつじが盛んに咲くこの道を、再び見る事が
    出来るだろうか。

    草壁の皇子が亡くなって悲しんで詠んだ歌で
    す。
    草壁の皇子に仕えていた舎人達は、皇子の死
    の一周忌には解任される。
    岩つつじが、赤く輝いて咲き満ちている道を
    通って、宮の前に参上していた日々は、なん
    と幸福であった事か。もう、あの日も来ない。
    そう思った時、舎人はその岩つつじを目に焼
    きつけ、思い出のよすがにしたことだろう。

 注・・磯の浦み=「磯」は海や湖などの水辺で岩の
     多い所。「浦」は曲がって陸に入り込んだ
     所。
    茂(も)く=草や木の盛んに成長するさま。
    皇子尊(みこのみこと)=ここでは草壁の皇子。
    宮=宮殿。
    舎人(とねり)=天皇や皇族の雑用をする下級
     官人。