なき数に 思ひなしてや とはざらん まだありあけの
月まつものを
            伊勢大輔 (後拾遺和歌集・1005)

(なきかずに おもいなしてや とわざらん まだ
 ありあけの つきまつものを)

詞書・・流行病がひどかった時分、久しく音沙汰ない
    人のところに詠み贈った歌。

意味・・私が疫病にかかって死んでしまったものと思
    い違いなさって、あなたは私を訪ねてくださ
    らないのでしょうか。まだ、こうして生きな
    がらえて、あなたのお越しをお待ちしており
    ますのに。

 注・・思ひなしてやとはざらん=ことさらそう思っ
     て見舞ってくれないのであろうか。「なし
     」は「なす」の未然形、意識してことさら
     ・・する。「思ひなして」はわざっとそう
     思っての意。
    まだありあけの=「まだ(この世に)有り」と
     「有明の月」を掛ける。

作者・・伊勢大輔=いせのたいふ。生没年未詳。筑前
     守・高階成順(たかしななりのぶ)の妻。