夏衣 きつつなれにし 身なれども 別るる秋の
程ぞもの憂き
                 伊達政宗 

(なつころも きつつなれにし みなれども わかるる
 あきの ほどぞものうき)

意味・・夏の衣に着慣れた身だけれども、その夏の衣と
    別れる秋というときは憂鬱なものだ。

    1593年秀吉が朝鮮を攻めた時、朝鮮に渡った武
    将の一人に正宗がいる。家来の原田宗時が病気
    となり27歳の若さで没した。この時に詠んだ歌
    です。
    歌の前半は、
   「唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる
    旅をしぞ思ふ」 (意味は下記参照)
    という業平の歌をふまえています。

    着慣れた夏衣は宗時を暗に示し、いつも肌身につ
    けていた夏衣のように親しかった事を意味してい
    ます。秋になって夏衣を着なくなるが、それと同
    様に、宗時と死に別れてしまって逢えなくなるつ
    らさを詠んでいます。

作者・・伊達政宗=だてまさむね。1567~1636。独眼竜と
     して知られる武将。仙台藩伊達家の初代藩主。

出典・・貞山公集。

参考歌です。

唐衣 着つつなれにし 妻しあれば はるばる来ぬる 
旅をしぞ思ふ              
                 在原業平

(からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる
 たびをしぞおもう)
(か・・・・ き・・・・・・ つ・・・・  は・・・・・・ 
 た・・・・・)

意味・・くたくたになるほど何度も着て、身体になじんだ衣服
    のように、慣れ親しんだ妻を都において来たので、都を
    遠く離れてやって来たこの旅路のわびしさがしみじみと
    感じられることだ。

    三河の国八橋でかきつばたの花を見て、旅情を詠んだ
    ものです。各句の頭に「かきつばた」の五文字を置い
    た折句です。この歌は「伊勢物語」に出ています。

 注・・唐衣=美しい立派な着物。
    なれ=「着慣れる」と「慣れ親しむ」の掛詞。
    しぞ思う=しみじみと寂しく思う。「し」は強調の意
     の助詞。
    三河の国=愛知県。

作者・・在原業平=ありひらのなりひら。825~880。従四位上・
     美濃権守。行平は異母兄。

出典・・古今集・410、伊勢物語・9段。