空をあゆむ朗々と月ひとり
                 荻原井泉水

(そらをあゆむ ろうろうとつきひとり)

意味・・さえぎるもののない夜空には、月があたかも
    朗らかに声をあげながら歩いているようだ。
    月は孤独で一人ぽっちのようだが、なんと自
    由で楽しそうなんだろう。

    月もひとり、私もただ一人、自ら信じるわが
    道を歩いて行こう。

    井泉水は自由律句を推進して、季語がなくて
    もよい、五七五でなくてもよい、自分の感動
    を表現出来ればよいという立場で句作を続け
    た。俳句の世界からは異端者扱いで孤独だが、
    自分の気持ちを詩として表現した時は、なん
    と明るい気持ちになれるのだろう、と上の句
    は歌っている。

 注・・空をあゆむ=雲間から出たり入ったりする時
     月が動いている感じがする、これを歩むと
     表現。また、「月ひとり我ひとり、我が歩
     めば月も歩む」ということ。
    朗々=声がほがらかに聞こえるようす。月の
     澄み切ったさまもいっている。

作者・・荻原井泉水=おぎはらいせんすい。1884~1976。
     東大文学部卒。機関紙「層雲」を発行。

出典・・歌集「原泉」(尾形仂編「俳句の解釈と鑑賞辞典」)。