柴の戸に ふるき筧の 音きくも 命の水の
すえぞかなしき
                心敬

(しばのとに ふるきかけいの おときくも いのちの
 みずの すえぞかなしき)

意味・・粗末な庵で古びた筧の水の音を聞くにつけて、
    その水がいつか尽き果てるように、私の寿命
    が尽き果てる将来の事を思うと悲しい。

    元気な今、その気があれば、険しい山にでも
    登れるし荒波の海に向かって泳ぐ事も出来る。
    病気になり、寝たきりにでもなれば、山に登
    りたいと思っても、海で泳ぎたいと思っても
    もう出来なくなる。
    人の寿命は、容器から流れ出る水のように、
    いつかは尽きる。やりたい事は元気な時に無
    理をしてでもやり遂げたいものだ・・。

 注・・柴の戸=柴造りの粗末な家。
    筧=地上に掛け渡して水を引く樋。
    命の水=人の寿命を、容器から流れ出ていつ
     かは尽きる水にたとえていう語。

作者・・心敬=しんけい。1406~1475。権大僧都。歌
    人、連歌作者。     

出典・・「寛正百首」(中世和歌集室町篇・新日本古典
     文学大系)。