旅にして もの恋しきに 山下の 赤のそほ船
沖に漕ぐ見ゆ
                高市黒人

(たびにして ものこいしきに やましたの あけの
 そほふね おきにこぐみゆ)

意味・・長い旅をしていると家がなんとなく恋しくなっ
    て来る。そんな時ふと見ると、さっきまで山の
    下にいた朱塗りの船が、沖の方を漕ぎ進んで行
    くのが見える。
    あの船は我が家のある都へ帰るのであろうか。
    寂しさがいっそうつのって来る。

 注・・もの恋しき=なんとなく恋しい。「もの」はなん
     となくという接頭語。もの静か・もの悲しい
     などと使われる。
    赤(あけ)のそほ船=船体を赤く塗った船。官船
     を意味する。
    見ゆ=活用語の断定を婉曲(えんきょく)に言い
     表す。

作者・・高市黒人=たけちのくろひと。生没年未詳。持
     統・文武朝(686~707)の下級官人。    

出典・・万葉集・270。