手のひらに 豆腐をのせて いそいそと いつもの角を
曲がりて帰る
                   山崎方代

(てのひらに とうふをのせて いそいそと いつもの
 かどを まがりてかえる)

意味・・私の楽しみは豆腐を食べることである。豆腐を
    つまみに酒を飲むと何ともいえない幸せを感じ
    る。
    豆腐を入れる器はいらない、とにかく豆腐が手
    に入ればいいのである。
    今日も売り切れずに買う事が出来た。良かった。
    さあ急いで帰ろう。角を曲がれば我が家はすぐ
    そこだ。手のひらにのった豆腐はうまいぞ、酒
    がうまいぞ。

    今のスーパーでビニール入りの豆腐を買うので
    はなく、「お豆腐屋さん」に行って買う時代で
    ある。無職に近い方代は器なんか気にしない。
    買う金が無い時もある。売り切れて買えない時
    もある。豆腐が買えた事が嬉しい。この豆腐で
    美味い酒が飲めるのは楽しみだ。急いで帰ろう。

    豆腐が買えた喜びと、これで美味い酒が飲める
    という楽しみ、この喜び二つを詠んでいます。

    病気のお母さんが豆腐を食べたいと言ったので、
    湯豆腐にして食べさせて喜んでもらおうと、豆腐
    を買って、いそいそと家に帰っていると鑑賞して
    もよい。

    日々の生活に、「嬉しきこと二つ」を持つ事は、
    「喜び」を意識するという事は、いい事である。    

    古典に見る「嬉しきこと二つ」、枕草子・129段
    参考です。

    経房(つねふさ)中将おはして、
   「頭弁(とうのべん)はいみじう褒めたまふとは、知
    りたりや。一日(ひとひ)の文にありし言(こと)な
    ど語りたまふ。想う人の、人に褒めらるるは、い
    みじう嬉しき」など、まめまめしうのたまふも、
    をかし。
   「嬉しきこと二つにて。かの褒めたまふなるに、ま
    た、想ふ人のうちにはべりけるをなむ」といへば、
   「それめづらしう、今のことのようにもよろこびた
    まふかな」など、のたまふ。

    ある時、清少納言の所に、ボーイフレンドの源経房
    がやって来て、「清少納言さん、あなたの事を藤原
    行成がベタほめしていましたよ。自分の好きな人が、
    他の人に褒められのは嬉しい事ですね」と言った。
    うてば響くように、清少納言は答えた。
   「あら、嬉しきこと二つですわ。行成様が褒めてくだ
    さった事が一つ、その上に、また、あなたが思う女
    の中に加えていただけた事、それで、二つですわ」

作者・・山崎方代=やまざきほうだい。1914~1985。甲
    府市・右左口(うばぐち)尋常小学校卒。1941年戦
    傷で右目を失明。靴の修理をしながら各地を放浪。
    毎年9月鎌倉の瑞泉寺で方代忌か催されている。

出典・・尾崎佐永子著「鎌倉百人一首を歩く」。