友がみな われよりえらく 見ゆる日よ
花を買ひ来て
妻としたしむ
             石川啄木

意味・・中学時代のクラスメート達は次々と出世して、
    自分などより偉く見える日よ。そんなみじめ
    さを感じる日、僕は、花屋さんから明るく美
    しい赤い花などを買い求め来て、家に持ち帰
    り、それを愛する妻と一緒に賞(め)でながら、
    親しく語り合っているのである。

    ささやかで平凡であるが、こんな名利を
    離れた、かけがえのない幸福感に浸って
    いると、いつしかあの子供じめたみじめ
    さなど、どこかに消えてしまうことだ。

作者・・石川啄木=いしかわたくぼく。1886~1912。
     26歳。盛岡尋常中学校中退。与謝野夫妻に
     師事するため上京。朝日新聞校正の職につ
     く。歌集「悲しき玩具」「一握の砂」。

出典・・歌集「一握の砂」。