稲荷山 すぎの青葉を かざしつつ 帰るはしるき
今日のもろひと 
                 六条知家

(いなりやま すぎのあおばを かざしつつ かえるは
 しるき きょうのもろひと)

意味・・今日出会う多くの人々が稲荷山からの帰りと
    はっきり分ります。みんな、杉の青葉を頭髪
    に挿して通り過ぎて行くので。

    「いなり」は「いねなり」で本来は稲を生ら
    せる豊作の神です。杉は枝葉が稲に似ている
    から稲の代用にされる。伏見の稲荷大社では
    杉の青葉を頭髪に挿して、来る秋の豊作を願
    い、山頂に鎮座する神蹟に参拝する風習が盛
    んであった。

 注・・稲荷山=京都市伏見区と山科区にまたがる山。
    ふもとに伏見稲荷がある。
    かざし=挿頭。草木の花や枝などを髪や冠な
     どに挿すこと。
    しるき=著き。はっきり分る、明白である。

作者・・六条知家=ろくじょうともいえ。1182~1258。
    藤原定家に指導を受けた歌人。

出典・・新撰和歌六帖(松本章男著「京都百人一首」)