*************** 名歌鑑賞 ***************

五月雨は たく藻の煙 うちしめり しほたれまさる
須磨の浦人
                 藤原俊成

(さみだれは たくものけぶり うちしめり しおたれ
 まさる すまのうらびと)

意味・・謫居(たっきょ)の身の須磨の浦人は日頃から涙が
    ちなのに、五月雨の頃は焼いて塩を取る藻も湿め
    りがちで、いちだんと濡れぼそていることだ。

    五月雨が藻塩を湿らせていよいよ焼きにくくし、
    浦人の嘆きを一層つのらせている。

    参考歌です。

   「わくらばに問う人あらば須磨の浦に藻塩たれつつ
    わぶと答へよ」   (意味は下記参照)
    
 注・・五月雨=陰暦の五月に降る長雨。梅雨。
    たく藻の煙=製塩するため、海水を注ぎかけて塩    
     分を含ませた海藻を干して焼く、その煙。この
     灰を水に溶かし、上澄みを煮て塩を取る。
    しおたれまさる=海水に濡れて雫が垂れる。そして
     袖が涙で濡れるほど嘆き沈むことを暗示する。
    須磨の浦人=須磨の浦は摂津国の枕詞。罪を負っ
     て須磨に謫居している都の貴人。
    謫居(たっきょ)=罪によって遠い地方に流されて
     いること。

作者・・藤原俊成=ふじわらのとしなり。1114~1204。
    正三位・皇太后大夫。「千載和歌集」の撰者。

出典・・千載和歌集・183。

参考歌です。

わくらばに 問ふ人あらば 須磨の浦に 藻塩たれつつ
わぶと答へよ
                   在原行平

(わくらばに とうひとあらば すまのうらに もしお
 たれつつ わぶとこたえよ)

意味・・たまたま、私のことを尋ねてくれる人があった
    ならば、須磨の浦で藻塩草に塩水をかけて、涙
    ながらに嘆き暮らしていると答えてください。

    文徳天皇との事件にかかわり須磨に流罪になっ
    た時に親しくしていた人に贈った歌です。

作者・・在原行平=ありわらのゆきひら。818~893。

出典・・古今和歌集・962。