*************** 名歌鑑賞 ***************


故郷に 今夜許の 命とも しらでや人の
我を待らん        
                                                        菊池武時

(ふるさとに こよいばかりの いのちとも しらでや
 ひとの われをまつらん)

意味・・明日は我々の総力をあげて敵と戦わねばならな
    い。おそらく私には今夜一晩の生命しか残され
    ていないだろう。それでも故郷の菊池の郷では
    そんなことはつゆ知らない妻や子が私を待って
    いることだろう。

        元弘の乱の時、後醍醐天皇の命令で北条英時を
    討とうと兵を挙げた時に詠んだ歌です。

    故郷を想って詠んだ浅野内匠頭の歌、参考です。

    風さそふ 花よりも猶 我はまた 春の名残を
    いかにとやせん     (意味は下記参照)

 注・・元弘の乱=1331~1333年、後醍醐天皇を中心
    とした鎌倉幕府の討幕運動。

作者・・菊池武時=きくちたけとき。1292~1333。

出典・・後藤安彦著「短歌でみる日本史群像」。

参考歌です。

風さそふ 花よりも猶 我はまた 春の名残を
いかにとやせん  
                          浅野内匠頭長矩
             
(かぜさそう はなよりもなお われはまた はるの
 
なごりを いかにとやせん)

意味・・風に吹かれて散る花よりも、私はもっとはかな
    い身で、名残り惜しい。わが身の名残りをこの
    世にどうとどめればよいのであろうか。

      桜の花が散っているこの庭から、遠く山の向こ
    うの赤穂を想うと、わが世の春を楽しむ庶民の
    生活があるだろう。私は、この春が終わった後
    はどうなるのかと心残りがする。

    浅野内匠頭が切腹する時に詠んだ辞世の歌です。
    赤穂では家中、家族、領民一同、今日一日が穏
    やかに暮れたように、明日も穏やかで平和の日
    々がある事を信じて、今日の終わりを迎えてい
    るだろう。家族や親しい者たちとの楽しい団欒
    やささやかな幸せ、それを自分の一瞬の激発が
    奪ってしまったのだ。「皆の者、許せ」と内匠
    頭が胸中に詫びた時、桜の花びらが一ひら、あ
    るともなしの風に乗ってここまで運ばれて来た
    のである。死にたくない。

作者・・浅野内匠頭長矩=あさのたくみのかみながのり。
    1667~1701。34歳。赤穂藩の藩主。「忠臣蔵」
    の発端になった人。