*************** 名歌鑑賞 ****************


秋立つや一巻の書の読み残し
                    夏目漱石

(あきたつや いっかんのしょの よみのこし)

意味・・秋になった。読書の秋というけれど、私には
    分厚い一冊の本の読み残しがある。読み切る
    のはいつになることやら。でも、大半は読ん
    だのだから 良しとするか。

    季節も夏から秋へと変化したように、思えば
    自分は老いて人生の秋にさしかかってしまっ
    た。分厚い書の読み残しではないが、私の人
    生にはまだ成すべき事、やりたい事が残って
    いる。

    「明暗」の執筆中に倒れる三ヶ月前に、芥川
    龍之介に宛てた手紙に記されたた句です。

    やり残しがあり残念だが、出きる限りの事は
    やって来たので、後悔もしていないし恥ずか
    しいとも思っていない、満足でもある。とい 
    う気持も含まれています。

作者・・夏目漱石=なつめそうせき。1867~1916。
    東大文学部卒。小説家。「明暗」連載中に胃
    潰瘍のため永眠。

出典・・大高翔著「漱石さんの俳句」。