************** 名歌鑑賞 ****************
 
 
指進の 来栖の小野の 萩が花 散らむ時にし
行きて手向けむ
               大伴旅人

(さしずみの くるすのおのの はぎがはな ちらん
 ときし ゆきてたむけん)

詞書・・731年、大伴旅人、奈良の家に在りて、故郷を
    思ふ歌。

意味・・来栖の野に美しい萩の花が散る前までに、きっ
    と出かけて行って故郷に萩の花を手向けよう。

    旅人の生涯を閉じたのは67歳。その年に病床で
    詠んだ歌です。萩の花が散る頃には病気を回復
    させ、生まれ故郷の飛鳥に帰り萩の花を眺めた
    いと、帰郷の望みを託した歌です。

 注・・指進(さしずみ)=「来栖」の枕詞。
    来栖=飛鳥にある小地名。生れ育った故郷。
    小野=「小」は接頭語。野、野原。
    手向け=神に願い事をして幣を捧げること。

作者・・大伴旅人=おおとものたびと。665~731。
    従二位大納言。

出典・・万葉集・970。