*************** 名歌鑑賞 *************
 
 
よそながら かげだに見むと 幾度か 君が門をば
すぎてけるかな
                 樋口一葉

(よそながら かげだにみんと いくたびか きみが
 かどを すぎてけるかな)

意味・・ただ顔が見たさにこらえきれなくなった夕
    べ、気づかれないようにこっそりと彼の家
    の門の前を行ったり来たりするのです。

    樋口一葉は明治五年に生まれ結核で亡くな
    ったのは明治二十九年。この時代には自由
    に生きることをはばむさまざまな制約があ
    った。一葉は家庭の事情から戸主になって
    しまったので、他家へ嫁ぐわけにはゆかな
    い身になってしまった。一葉が愛した恋人
    も兄弟を養う戸主だったので、二人は結ば
    れない仲となった。彼との結婚は出来ない
    ものの恋はあきらめることが出来ませんで
    した。

 注・・戸主=旧民法での用語。一家の長で戸主権
     を持ち、家族を養う義務のある者。

作者・・樋口一葉=ひぐちいちよう。1872~1896。
    24歳。作家。「たけくらべ」「にごりえ」。

出典・・樋口一葉和歌集(林和清著「日本のかなしい
    歌」)