*************** 名歌鑑賞 ***************


咲く花は 移ろふ時あり あしひきの 山菅の根し
長くはありけり

                  大伴家持

(さくはなは うつろうときあり あしひきの やま

 すがのねし ながくはありけり)

意味・・はなやかに咲く花はいつか色褪(あ)せて散っ

    てしまう時がある。目に見えない山菅の根こ
    そは、ずっと変らず長く長く続いているもの
    である。

    この歌は757年に詠まれており、藤原家との
    対立が激しくなっていた。その年は右腕の橘
    諸兄(もろえ)が死に、その前年に家持が頼り
    とする聖武天皇が亡くなっている。諸兄の子
    橘奈良麻呂は藤原仲麻呂に謀反を起こしたが
    失敗し、家持の知友の多くが捕らえられ処刑、
    配流される事件があった。貴族暗闘の時局を、
    これらの人々を心にしながら詠んだ歌です。

    栄耀栄華は一睡の夢、それに引き換えて山菅
    の根のような、細く長く着実に生きるあり方
    は目立たないが長く続くものだと詠んでいる。

 注・・咲く花は=知友達の悲運の哀傷や仲麻呂の栄
     達の憤懣(ふんまん)の気持がこもる。
    あしひきの=「あしびきの」とも。山の枕詞。
    山菅の根し・・=細く長く着実に生きていく

     ことへの意志がこもる。

作者・・大伴家持=おおとものやかもち。718~785。

    大伴旅人の長男。少納言。万葉集の編纂をした。

出典・・万葉集・4484。