****************** 名歌鑑賞 *****************


よの常に 思ふわかれの 旅ならば こころ見えなる 
手向けせましや          
                 藤原長能

(よのつねに おもうわかれの たびならば こころ
 みえなる たむけせましや)

意味・・通り一遍に思う別れの旅であったなら、こんな
    心底見えすいた餞別をしましょうか、大切な人
    との別れと思いますので、粗品(狩衣と扇)なが
    ら再会を期して進呈しました。どうか寸志をお
    受け下さい。

    詞書は田舎に下る人に餞別として、狩衣と扇を
    贈る時に詠んだ歌となっています。当時は送別
    の時に、「狩衣と扇」を餞別として贈り「また
    帰って来て会いましょう」の気持を表わした。
    これが、かえって通りいっぺんの贈り物と取ら
    れそうなので、この歌を添えて贈ったものです。

 注・・よの常の=世間普通の。
    こころ見え=心が見え見え、心底見えすいた。
    手向け=餞別。
    せましや=「や」は反語の助詞、手向けしませ
    んものを。
    狩衣(かりぎぬ)=もと鷹狩の時に用いたが常服
     になった。「帰り来ぬ」の意が掛けられている。
    扇=「逢う」の意を掛けて、再び再会を期する。

作者・・藤原長能=ふじわらのながとう/ながよし。949~
    1009。伊賀守。中古三十六歌仙の一人。 
 
出典・・後拾遺和歌集。467。