***************** 名歌鑑賞 ****************


珠洲の海に 朝開きして 漕ぎ来れば 長浜の浦に
月照りにけり      
                                          大伴家持

(すずのうみに あさびらきして こぎくれば ながはまの
 うらに つきてりにけり)

意味・・珠洲の海に朝早く舟を出して漕いで来ると、
    長浜の浦にはもう月が照り輝いていた。

    春の出挙(すいこ)のため諸郡を回って歩き
    任務を終えて帰る時に詠んだ歌です。

    舟旅の強行軍を詠んでいます。
        珠洲から長浜まで海上70キロ、当時の舟の
    漕ぐ時速は2.5キロ、潮流もほぼ等しく、朝
    4時に珠洲を出発すれば20時に長浜に到着。

 注・・出挙(すいこ)=利息付の消費貸借。春に官
     稲を貸し、秋に利息を付けて返済させる。
     利率は貸付の半倍。
    珠洲=石川県能登半島の北部の市。
    朝開き=夜停泊していた舟が夜が明けて港を
     出ること。
    長浜=能登半島の氷見市のあたり。
    月照りにけり=長浜の浦に着いた時はすでに
     夜に入っており、月光を仰ぎ見るほどにな 
     っていた。
  
作者・・大伴家持=718~785。大伴旅人の子。万葉集
     の編纂(へんさん)もする。

 出典・・万葉集・4029。