***************** 名歌鑑賞 *****************


また見むと 思ひし時の 秋だにも 今宵の月に
ねられやはする
                 道元
 
(またみんと おもいしときの あきだにも こよい
 のつきに ねられやはする)

詞書・・建長五年中秋。

意味・・中秋の夜は、生憎の天候で月を見る事が出来
    なかった年でさえ、月を思って眠られなかっ
    たものである。まして八月十五夜の今夜、そ
    の満月を見る事が出来るので、今宵は月を眺
    め明かしたいと思う。月と心を合わせる事な
    く眠りにつく事が出来るであろうか、眠れる
    はずがない。

    道元が亡くなる二週間前の八月十五夜の京都
    の草庵で詠んだ辞世の歌です。

    「寝なくとも今宵の月を眺め明かしたい」と
    言う気持ちは何んでしょうか。

    今夜の月の光明はなんと清涼でよく世間の闇
    を照らしていることだ。
    病気や失業、借金で苦しみ、仕事の問題、家
    庭の問題、いじめなどで思い悩み苦しんでい
    る人達。相談相手もいなく、希望を無くし、
    今にも自殺をしたいと思っている人々。
    この真っ暗闇で悩んで生きている人々に希望
    の光として、今宵の月は照らしている。
    なんと素晴らしい月夜ではないか。今宵は月
    を眺め明かしたい。

    希望の光として照らされても、病気が治る事
    も無いし、借金が減ったりする事も無い。子
    供の非行問題が解決される訳でも無い。
    でも、誰かと相談する勇気を与える事は出来
    る。思い悩む心を変えさせて気を楽にさせる
    事は出来る。こういう手助けなら出来ない事
    はない。先ず暗闇を見つけ、そして照らす事
    だ。今宵の月は暗闇を無くそうとして照って
    いる。寝ずして月夜を明かそう。

 注・・建長5年中秋=1253年8月15日(陰暦)。道元
     は建長5年8月28日(陰暦)に死去している。
    やは=反語の意を表す。・・だろうか、いや
     ・・ではない。

作者・・道元=どうげん。1200~1253。曹洞宗の開祖。

出典・・建撕記・けんぜいき(松本章男著「道元の和歌」)