*************** 名歌鑑賞 ****************


あをによし 奈良の都に たなびける 天の白雲
見れど飽かぬかも
               詠み人知らず
               
(あおによし ならのみやこに たなびける あまの
 しらくも みれどあかぬかも)

意味・・美しい奈良の都の大空に棚引く白雲、あの白雲
    はいくら見ても見飽きることがない。

    参考歌は奈良の雲を詠んだ歌です。

   「ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲」
                   (意味は下記参照)

 注・・あをによし=奈良の枕詞。
 
出典・・万葉集・3602。

参考歌です。

ゆく秋の 大和の国の 薬師寺の 塔の上なる
一ひらの雲
                佐々木信綱
             
(ゆくあきの やまとのくにの やくしじの とうの
 うえなる ひとひらのくも)

意味・・秋がもう終わりをつげようとしている頃、
    大和の国の古い御寺、薬師寺を訪ねて来て
    みると、美しい形相を誇って高くそびえる
    宝塔の上には、一ひらの雲が静かに浮かん
    でいて、その幽寂な感じをいっそう強くし
    ている。ああその白い雲よ。

    うるわしい大和(奈良)のゆく秋を惜しむ気
    持と、1300年の歴史を刻んだ古典的な味わ
    いのする高塔と、その上にある一片の雲を
    通して感触する旅愁を詠んでいます。
    
 注・・ゆく秋=晩秋。秋の暮れ行くのを惜しむ心
     がこもっている。四季の中で春と秋とは
     過ぎ去るのが惜しい季節なので「行く春」
     「ゆく秋」と詠まれる。
    大和=日本国、ここでは奈良県。
    薬師寺=奈良市西の京にある古寺。730
     年に建造。塔は高さ38m。各階に裳階(も
     こし)があるので六重塔に見えるが三重塔。
     塔の上には相輪が立ち、さらにその上部
     に水煙の飾りがある。

作者・・佐々木信綱=1872~1963。国文学者。歌集
     に「思草」「新月」の他「校本万葉集」。