*************** 名歌鑑賞 ****************


いかばかり しづのわが身を 思はねど 人よりも知る
秋の悲しさ              
                   散逸物語・
                   道心すすむる君

(いかばかり しずのわがみを おもわねど ひとより
 もしる 秋のかなしさ)

詞書・・秋の悲哀は、華やかに時めいている貴人の
    心には届かない、という心を。

意味・・わが身の卑しさをそれほども思わないけれ
    ども、人よりも秋の悲哀をいっそう感じて
    います。
 
    白楽天の詩、
    城柳(せいりゅう)宮槐(きゅうかい)漫(みだ)り
    がはしく揺落(ようらく)すれども 秋の悲しみ
    は貴人の心に至らず
    (都の町筋の柳、宮中の槐(えんじゅ)の木の葉
    たちは、秋風に吹き乱されて散り果ててしまっ
    たけれども、季節の愁い悲しみというものは、
    華やかに時めく貴人の心には感じないでありま
    しょう・・人々の愁い哀しみは感じないであり
    ましよう)
    この詩の心を詠んだ歌です。

 注・・しづ=賤。卑しい者。身分の低い者。

作者・・道心すすむる君=散逸物語に出て来る主人公。

出典・・風葉和歌集・337。