***************** 名歌鑑賞 ****************


津の国の 難波のあしの 枯れぬれば こと浦よりも
寂しかりけり       
                  加茂真淵

(つのくにの なにわのあしの かれぬれば ことうら
 よりも さびしかりけり)

意味・・津の国の難波の芦、すなわち名所の名物が
    枯れたので、他の何でもない浦よりも寂し
    いことである。

    名所の名物が失せた跡は、他の名もない所
    より却って寂しい、と言っています。
    これは難波の芦だけではなく、広く人の世
    にも言えることです。人の死後そのために
    起こされる寂莫感が、やがてその人の価値
    だという事を思わされます。

 注・・津の国の=難波に掛かる枕詞。摂津の国。
     今の大阪。
    難波のあし=摂津の難波の芦は上代より名
     所であり、その浦の芦はそこを特色づけ
     る名物であった。
    こと浦=異浦。他の浦。

作者・・加茂真淵=かものまぶち1697~1769。
    万葉集などの古学の国文学者。本居宣長
    など門人を多数育成。
 
出典・・河出書房新社「蕪村・良寛・一茶」。