************** 名歌鑑賞 **************


敵というもの今は無し秋の月  
                高浜虚子

(てきという ものいまはなし あきのつき)

意味・・憎しみの対象として、また恐怖の根元として、
    今までは敵というものがあった。その「敵」
    というものが、今は全くなくなってしまい、
    清澄な秋の月が光を放って空にあるだけだ。

    昭和20年8月25日の朝日新聞に載った句です。
    日本民族がかって経験したことのない、前面
    的な敗戦によって一億国民は虚脱状態に陥っ
    ていた。この句には、当時の日本人に共通し
    た、一種のむなしさが裏打ちされている。
    しかし、「敵というもの」といったところに、
    人間の繰り返してきた戦争というものの愚か
    さが指摘された句です。

作者・・高浜虚子=たかはまきょし。1874~1959。
    正岡子規と交際。「ほとどぎす」を通じて、
    飯田蛇笏・前田普羅・渡辺水把らを輩出さ
    せた。

出典・・句集「六百首」(笠間書院「俳句の解釈と鑑
    賞事典」)