**************** 名歌鑑賞 ****************


命にも まさりて惜しく あるものは 見果てぬ夢の
覚むるなりけり     
                  壬生忠岑

(いのちにも まさりておしく あるものは みはてぬ
 ゆめの さむるなりけり)

意味・・命は惜しいものであるが、それにもまして
    惜しいのは、思う人との楽しい逢瀬の夢を
    おしまいまで見ないうちに、それが覚めて
    しまうことであった。

    詞書に「昔、ものなど言ひ侍りし女の亡く
    なりしが、夢に暁がたに見えて侍りしを、
    え見はてで覚め侍りにしかば」とあります。

    愛人の夢は惜しいが、ことに今は亡き昔の
    愛人で、その思いも強かったことでしょう。

作者・・壬生忠岑=みぶのただみね。生没年未詳。
    従五位下。古今集撰者の一人。

出典・・古今和歌集・609。