*************** 名歌鑑賞 ***************

 
荒栲の 布衣をだに 着せかてに かくや嘆かむ
為むすべをなみ   
                 山上憶良

(あらたえの ぬのきぬをだに きせかてに かくや
 なげかん せんすべをなみ)

意味・・お粗末な布製の着物でさえも子供に着せる
    ことが出来ないで、他にどうしょうもない
    ので、ただこのように嘆いてばかりいる事
    だろうか。(金持ちはどっさり不要の着物を
    しまっているのになあ)

    この歌は貧乏人の立場に立って詠んだ歌で
    次の歌は金持ちの側に立って詠んだ歌です。
   「富人の家の子どもの着る身なみ腐し捨つらむ
    絹綿らはも」  (意味は下記参照)

 注・・荒栲(あらたえ)=楮(こうぞ)の繊維による
     目の粗い布。
    着せかてに=着せかねて。可能の意の「かつ」
     に打ち消しの助動詞「ぬ」が接した形。
    すべをなみ=術を無み。頼るべき手段が無い。

作者・・山上憶良=やまのうえのおくら。660~733。
    遣唐使として唐に渡り、帰朝後、筑前守となる。
 
出典・・万葉集・901。

参考歌です。
富人の 家の子どもの 着る身なみ 腐し捨つらむ 
絹綿らはも           
                 山上憶良

(とみひとの いえのこどもの きるみなみ くさし
 すつらん きぬわたらはも)

意味・・物持ちの家の子供が着あまして、持ち腐れに
    しては捨てている、その絹や綿の着物は、ああ。
    (もったいない。粗末な布の着物すら着せら
    れなくて嘆いている人もいるというのに)

 注・・なみ=無み、無いために。
    着る身なみ=着物の数に対して、着る人が
       少ない状態。
    はも=深い感動の意を表す、・・よ、ああ。
 
出典・・万葉集・900。