*************** 名歌鑑賞 **************

 
ながむべき 残りの春を かぞふれば 花とともにも
散る涙かな
                  俊恵法師

(ながむべき のこりのはるを かぞうれば はなと
 ともにも ちるなみだかな)

意味・・桜の花をしみじみと眺めることの出来る余生
    の春を数えると、散る花とともに落ち散る涙
    である。

    花のこの美しい風景が眺められるのは今だけ
    であり、季節や天候、時間によってその風情
    は刻々と変貌している。風景だけではなく、
    自分の容姿や気持ちも変わって行くので、再
    びこの場所に来て同じ風情は見られないだろ
    う。残りの春が少なくなった現在、この美し
    い風景をたんのうしてゆくが、もう見られな
    いと思うと哀しくなってくる。そして今を大
    切にと思うのである。

             花を眺める事の出来る、自分に残された春
    を数えると、花は身に沁みて哀れに感じら
    れ、落花とともに、こぼれる涙である。

    「残りの春」は桜の咲くのを、一年単位に
    見ての残りの年で、余命。死を意識する時、
    全ての物の存在は、面目を改めるという。
    この歌も、花の美しさが身に沁み、思わず
    涙がこぼれ落ちる涙であった事が知られる。
    我が命も惜しまれる境地である。

 注・・ながむべき=桜の花をしみじみと眺める事
     の出来る。
    残りの春=余生。

作者・・俊恵法師=しゅんえほうし。生没年未詳。
    表記の歌は1278年詠んだ歌。65歳くらい。
    東大寺の僧。
 
出典・・新古今・142。