*************** 名歌鑑賞 ***************


行く春や鳥啼き魚の目は涙
                  芭蕉

(ゆくはるや とりなきうおの めはなみだ)

意味・・世はまさに春の終わり。鳥の鳴き声にも行く
    春を惜しむ情がこもり、涙するはずのない魚
    の目に涙がにじんでいるのも、春との別れの
    辛さかとみえる。鳥獣虫魚、山川草木、あげ
    て春との別れを惜しんでいる時に、心優しい
    あなた方との別れをかなしみつつ私は一筋の
    道に招かれて長旅に立つ。漂泊の身は空行く
    鳥と何の区別があろう。流れに身をまかせて
    いる魚とさしたる違いはない。啼く鳥、涙す
    る魚、それはこの自分であり、あなた方でも
    ある。ともに行く春を惜しみつつ相別れよう
    ではないか。

    1689年、奥の細道の旅立ちにさいして、見
    送りの人々に対しての留別吟です。
   「千住といふところに舟を上がれば、前途三千
    里の思ひ胸にふさがりて、幻の巷に離別の涙
    をそそぐ」と紀行されています。

 注・・行く春や=去り行く季節の哀歓と離別の悲し
     さとが二重写しになっている。
    留別吟=旅立つ者が後に残る者に贈る別れの
     句。この反対が餞別吟。
    千住=東京都足立区。

作者・・芭蕉=ばしょう。松尾芭蕉。1644~1694。

出典・・奥の細道。