*************** 名歌鑑賞 ***************


越え行くも 苦しかりけり 命ありと またとはましや
小夜の中山
                  後深草院二条 

(こえゆくも くるしかりけり いのちありと また
 とわましや さやのなかやま)

意味・・越えて行くのも苦しい小夜の中山です。もし命
    があるとしも、またここに来て越える事がある
    でしようか。あの西行のように、その歌のよう
    に。

    後深草院の寵愛を受けた二条は、また同時に他
    の男性達と関わりをもち、宮廷女性として華や
    かな、しかし悩み多い生活をした。30歳頃宮廷
    を出て尼姿になり、憧れていた旅と歌に生きた
    西行の生活を自らも送り、後にその愛欲と旅の
    半生の記録を「とはずがたり」に綴る。
    旅の途次、小夜の中山に至って、西行の「年た
    けてまた越ゆべしとおもひきや命なりけり小夜
    の中山」を思い出して詠んだ歌です。

 注・・小夜の中山=静岡県掛川市にある坂路。古く東
     海道が通じ、歌枕として有名。

作者・・後深草院二条=ごふかくさいんのにじょう。12
              58~?。幼時より後深草院の許に育つ。恋愛に
    悩み、のち出家し諸国遍歴の旅に出る。半生の
             記録「とはずがたり」。
 
出典・・とはずがたり。

参考歌

年たけて また越ゆべしと おもひきや 命なりけり
小夜の中山
                   西行 

意味・・若かった日、小夜の中山を越えた折、年老いて
    再び越えることがあると思っただろうか。命が
    あるから今越えて行くのである。

    東大寺再建のため、砂金勧進を目的として、藤
    原秀衝(ひでひら)を平泉に訪ねた時の歌。
    「命なりけり」に求道の年月を経て今日に至っ
    た自分の命によせる、激しく、しかもしみじみ
    と深い思いが、よく表現されている。

出典・・新古今・987。