***************  名歌鑑賞 **************

 
夕立の にごりにしむは いやいやと 蓮はかぶりを
ふる池の中     
                  山手白人

(ゆうだちの にごりにしむは いやいやと はすは
 かぶりを ふるいけのなか)

詞書・・蓮池の夕立。

意味・・濁りに染(し)まぬ蓮の葉と古歌にも詠まれて
    いるが、なるほど、夕立の通り過ぎたあとの
    古池には、濁り水に染むのをいやだいやだと
    いうように、蓮の葉が風に吹かれて頭をふっ
    ている。

    夕立が降ったあと、風が吹き蓮の葉をゆらし
    ている涼しい風景描写となっています。

    古歌は「蓮葉の濁りに染まぬ心もて何かは露
    を玉とあざむく」(意味は下記参照)

 注・・ふる=「振る」と「古」を掛ける。

作者・・山手白人=やまのてのしろひと。1737~17
    87。本名は布施弥次郎。幕府の評定所留役。

出典・・小学館「黄表紙・川柳・狂歌」。

古歌の意味

蓮葉の 濁りに染まぬ 心もて なにかは露を 
玉とあざむく         
               僧正遍昭

(はちすばの にごりにしまぬ こころもて なにかは
 つゆを たまとあざむく)

意味・・蓮の葉は泥水のなかに生えながら濁りに染ま
    らない清らかな心を持っているのに、その心
    でどうして葉の上に置く露を玉と見せて人を
    だますのか。

    上句は法華経の経文(世間の法に染まらざるこ
    と蓮華の水にあるがごとし)による。
    露を玉とみる典型的な見立ての伝統を踏まえ、
    清浄の象徴である蓮が欺く、と意表をついた
    表現が趣向。

作者・・僧正遍昭=そうじょうへんじょう。890年没。
    桓武天皇の孫。蔵人頭となったが出家。僧正。

出典・・古今和歌集・165。